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介護は思わぬ相続トラブルに発展することも!知ってきたい基礎知識

少子高齢化や核家族化の進展により、65歳以上の高齢者を同じく65歳以上の高齢者が介護する老々介護、あるいは、平均寿命と健康寿命の格差により、認知症の要介護者を同じく認知症の介護者が介護する、認々介護の問題が顕在化しています。

実はこの介護の問題、相続にも少なからぬ影響を及すことがあることをご存じでしょうか? 中でも相続人が複数いる場合、誰が亡くなった方を介護していたのかという問題は、場合によっては争族にも発展しかねない大きな問題でもあるのです。

介護問題は相続トラブルの一因にも

民法第904条の2第1項は、特定の相続人が被相続人(故人)に特別の貢献をした場合、その相続人の相続分を、他の相続人よりも多くすることを認めており、これを寄与分といいます。

介護との関連で具体例をあげれば、ある相続人が被相続人の介護を献身的に行っていた場合に、介護をしていた相続人が、自分の相続分は他の相続人よりも多くて当然だと考え、寄与分として主張することなどが想定されます。

あるいは、被相続人と同居している相続人の配偶者が、相続人に代わって熱心に被相続人の介護をしていた場合なども該当します。

なお、この場合は、実際に介護をしていた相続人の配偶者には相続の権利がありませんが、民法の相続に関する規定(相続法)が2019年7月から改正され、相続人の配偶者にも、特別寄与料として介護の貢献に応じて財産を受け取れる権利が新たに認められました。

とは言っても、被相続人の介護をしていた相続人、あるいはその配偶者が、介護を理由に当然の権利として寄与分や特別寄与料を主張したとしても、相続人通しが不仲だったりすると、その主張が認められなかったり、金額の計算方法に合意しなかったりして、争族になってしまうことが少なくないのです。

特に、核家族化や超高齢化が進み、親の介護が深刻な問題になっている昨今は、相続人通しが感情的になる傾向が多く、介護問題は場合によっては相続トラブルの一因になることが決して少なくはないのです。

相続法改正の背景と特別寄与料制度の概要

相続人が直接被相続人の介護をしていた場合よりも、相続人に変わって相続人の配偶者が介護をしていたケースの方が、問題が余計に深刻になる傾向が強いようです。

従来から制度として存在する寄与分に加え、2019年7月から新たに認められた特別寄与料制度の趣旨は、正に深刻な社会問題の一つにもなっていた、この相続人の配偶者の不平等な立場を解消することにあったと言っても過言ではないでしょう。

この特別寄与料制度の施行により、従来は、例え長年にわたって被相続人を献身的に介護してきたとしても、何らその貢献を認められることのなかった相続人ではない親族でも、介護の貢献に応じて金銭の支払いを請求できることになったのです。なお、特別寄与料を請求するには、下記前提を満たしていることが要件となります。

特別寄与料の請求が認められる要件

・介護者が相続人以外の親族であること
  *友人や内縁の配偶者などは対象外

・被相続人に無償で療養看護等を行ったこと
  *対価が支払われていれば要件外

・被相続人の財産が維持または増加したと認められること
  *例えば、ヘルパーさん等に支払うべき費用がかからなかった、等々

特別寄与料を請求する手続きの流れ

特別寄与料を請求する、大まかな手順は以下となります。

・特別寄与者が相続人に特別寄与料を請求し、特別寄与者と相続人が協議
(ケース1)

・特別寄与者と相続人が合意 → 特別寄与料の権利が発生
(ケース2)

・相続人が拒否 → 特別寄与者が家庭裁判所に協議に代わる処分を請求

・家庭裁判所が寄与の時期、方法、程度、相続財産の額、並びに、療養看護の必要性、貢献の度合い、継続性、専従性などを考慮して判断(注)

(注)被相続人が入院していたり、完全看護の施設に入っていたりする場合は否定されます。また、親族間の一般的な扶養義務の範囲を超えた、特別の貢献が必要とされており、介護の期間も、最低でも1年以上が必要と言われています。

家庭裁判所では、従来から存在する制度である相続人の寄与分さえ、なかなか認めていないのが実情です。特別寄与料についても、現実にはかなりハードルが高いのが実情のようです。

さらに、仮に特別寄与料が認められたとしても、相続人の配偶者は法律上の相続人ではありませんので、法律的には「遺贈」とみなされます。このため、相続税の対象となり、相続税の2割加算の対象になることにも留意する必要があります。

寄与分、特別寄与料の計算方法

それでは、寄与分や特別寄与料はどのように計算するのでしょう? 以下に、家庭裁判所が示す「療養看護型寄与料」を参考に、寄与分、特別寄与料の計算方法を例示します。

計算方法 介護の日当額 × 日数 × 裁量的割合  = 介護寄与分額
金額例

8千円     ×  365     ×       65%           = 1,898千円

なお、上記介護の日当額は介護士の事例を目安に、裁量的割合は、家庭裁判所がケースに応じて判断することになっています。

特別寄与料制度の新設により、介護をした者は報われるのか?

繰り返しになりますが、特別寄与料制度の新設により、親族関係が円満でさえあれば、相続人に代わって被相続人の介護をした相続人の配偶者も、相続財産からある程度の金銭を受け取ることが可能になり、その限りにおいては報われるとも言えます。

ただし、この制度の現実は、あくまでも特別寄与者である相続人の配偶者が、特別寄与料を請求できるだけに過ぎません。当然に準相続人とも言うべき権利が生じた訳ではないことを忘れてはなりません。

また、特別寄与料を請求する場合、相手は一般的には配偶者の兄弟等になります。このため、相続人ではない配偶者としては、相続人との間に波風を立てないよう配慮する必要もあるでしょう。

介護をすれば、自動的に報われるようになった訳ではなく、例え特別寄与料を請求したとしても、相続人側がそれを拒めば相続で財産をもらう権利はないことに変わりはありません。

なお、その場合は家庭裁判所へ協議に代わる処分を請求できるとは言っても、家庭裁判所に請求すること自体、心理的な負担は決して小さくはないうえに、請求しても認められない可能性も低くはなく、仮に認められたとしても、その金額が納得できる金額になる保証もありません。

結果として、やはり争族になってしまうリスクが小さくはないことに変わりはないのです。

さらに、特別寄与料を請求できるのは、あくまで被相続人の親族に限定されている点にも留意する必要があります。例えば内縁の配偶者などは、この制度の対象外であることも忘れてはならないでしょう。

結論としては、特別寄与料制度が新設されたとは言え、介護をしてくれた人にきちんと報いたいのであれば、やはり介護をしてもらった人が、その旨を遺言書として残して置く方が無難と言わざるを得ないでしょう。

事実、相続法の改正においては、争族を防止するための有効な手段の一つである自筆証書遺言についても、その方式、並びに、これまで問題点の一つとされていた、保管の手段について改善されているのです。

遺言書制度の概要

自筆証書遺言の改正内容について触れる前に、まずは遺言書制度の概要についておさらいしてみます。
遺言は、民法で定められた法律行為であり、法定相続分に優先され、遺言者の死亡後、相続財産の帰属について、親族の紛争を防止するうえで重要な意味を持ちます。

満15歳以上であり、意思能力を持つ者であれば誰でも作成でき、例え未成年者であっても、法定代理人の同意は必要ありません。

また、民法上、臨終遺言や隔絶地遺言など、一般社会と断たれた状態にあるなどの特殊な状況下にあって、通常の遺言ができない場合にのみ認められる特別方式遺言と、一般に作成される普通方式遺言に分類され、さらに、普通方式遺言には下記三つの方式があります。

自筆証書遺言

遺言者が、遺言の全文、日付、氏名を自書し、押印。財産目録を除く、代筆やワープロ等での作成は不可

公正証書遺言

遺言者が口述し、公証人が筆記。遺言者が2人以上の承認が内容を確認し、公証人と共に署名、押印。原本は公証役場で保管、正本を遺言者が保管。

秘密証書遺言

遺言者が作成した遺言に署名、押印して封印し、2人以上の承認と高初任の前で申述。代筆やワープロ等での作成可

自筆証書遺言改正のポイント

相続法が改正されたのは、上記3方式の中で最も作成が容易とされる自筆証書遺言についてです。

改正のポイントは、不動産の所在地や預・貯金の口座などを含め、すべて手書きしなければならなかった手間が緩和されたこと、並びに、形式に不備があると法的には無効とされ、せっかく遺言書を残しておいても、遺言者が亡くなった後、遺族が遺言書の存在に気付かない、等々の問題点が改善される可能性が高まったことです。

(1)相続法の見直しで改正される項目と施行時期

項目 施行時期
自筆証書遺言作成の要件緩和 2019年1月13日
自筆証書遺言の保管制度の新設 2020年7月10日

(2)自筆証書遺言作成の要件緩和内容と注意点

改正内容

別紙として添付することを条件に、相続財産の全部又は一部の目録(財産目録)について下記を容認

・パソコンやワープロによる作成が可

・登記事項証明書、預貯金通帳のコピーを添付することも可

・第三者による代筆も可

注意点

・2019年1月13日以降に作成した遺言書から適用

・財産目録の全てのページに遺言者の署名、押印が必要

・訂正時は訂正箇所に訂正した旨を付記し、署名、押印

(3)自筆証書遺言の保管制度新設の内容と注意点

改正内容

申請する法務局は、遺言書作成者の住所地、本籍地、所有している不動産の所在地のいずれかの中から選択可。遺言者自らが選択した法務局に出頭し、保管を申請。法務局が法律上の形式要件を確認。法務局で原本を保管し、画像データとしても記録。

訂正や再作成した遺言書を再度保管申請することも可 家庭裁判所における検認手続きが不要。

注意点

代理人による申請は不可。

遺言者が死亡しても、法務局から遺族に、遺言書を保管している旨の通知はされない 遺言者の生存中に、相続人等が法務局に遺言書保管の有無を確認することは不可。

遺言の本文はこれまで通り自書しなければならないこと、保管制度を利用したとしても、遺言者が遺言書をしたため、保管制度を利用している事実を、相続人や遺言執行者などにあらかじめ伝えておかなければならない、等の問題はなお残っているとは言え、今回の改正により、自筆証書遺言の問題点がかなり改善され、公正証書遺言と比較しても、さほど遜色はなくなったと言っても過言ではないでしょう。

まとめ

従来からある寄与分に加え、特別寄与料制度が新設されたことで、介護をしてくれた相続人やその配偶者に財産を残して報いることができると過信するのは、やはり早計と言わざるを得ません。

一方、形式に不備の無い遺言書をしたためて置きさえすれば、被相続人の介護をした相続人はもとより、その配偶者にも、あるいは内縁の配偶者など、法律的には親族関係に無い人にも財産を渡すことができ、介護してもらったことに確実に報いることができます。

さらに、介護をしていた相続人やその配偶者は、他の相続人に対して波風を立てないよう配慮したり、敢えて請求行為をすることもなく、財産を受け取ることができます。

寄与分や特別寄与料制度は、あくまでも何らかの事情で遺言書を残すことができなかった場合の保険という程度の意味合いと認識し、自分が亡くなった後に介護してくれた人が困らないよう、そして何よりも、相続人同士が争うことの無いように、やはり遺言書を残して置く方が、より無難であることは議論の余地がないでしょう。

その際、例え公証役場への手数料が発生するにしろ、偽造のリスクがより少ない公正証書遺言の方が安心できるとは言え、相続法の改正により、作成が比較的容易である自筆証書遺言も、これまで以上に利用し易くなりました。

なお、遺言を残すに当たって最も重要な点は、残される遺族の心情にも配慮し、相続が発生した後の手続きが、実際にスムーズになされることです。これは、公正証書遺言でも自筆証書遺言でも変わらないことを理解しましょう。

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